中国・商末周初期(紀元前11~前10世紀)

鳳凰文?
 ゴテゴテ・・・という言葉がふさわしい物体。一見して何かは分からぬが、すごいオーラを感じる。今から3千年以上昔、中国・黄河流域で作られた青銅の酒つぼでうる。
 有名な殷墟(河南省安陽市)に商(殷)の都があった時代、精巧かつ複雑怪奇な形の青銅器が数多く登場した。本品はその一つで、提げ手の付いた下膨れの形状から卣と称される。祖形はもつとシンプルで文様も控えめであるが、恐竜のごとく大型化、複雑化を遂げた。あちこち
 にL字形の突起が腕のように飛び出している。それぞれの突起の先端には牛ないしは竜のような獣面が掘り込まれている。かぞえたら32面もの獣面があった。一方、腹部には大きな鳳凰の文様、ふたや頚部、高台には小型の鳳凰文が浮き彫りされている。文様の縁はエッジを立てて鋳出されており
、浮き彫りが引き締まって見える。ゴテゴテ感とただならぬオーラは、霊獣や零鳥たちが集結しているからであり、このつぼはその霊力を蓄えたきわめて神聖な器であったと分かる。古代の「かざり」はすなわち「霊力」であった。
 そもそも、中国古代の青銅器は実生活の道具ではない、祖先伸をまつるために酒や食事を捧げる「祭器」だあった。中でも一番多いのは酒器である。まつりなおいて酒の役割が多いのは、国や時代を問わないようだ。そしてまつりにこそ、手間暇を惜しまず、最高の技術と財力と情熱を傾けたのである。本品ほど風格が高いものは、本場の中国でもなかなかお目にかからない。メトロポリタン美術館(米国)に類似の卣があると聞くが、ぜひ奈良でその霊力に当たった欲しい。
            (学芸部情報サービス室長  吉澤 悟)