伊能忠敬作 江戸時代(19世紀)


日本沿海興地図 東北
 地図に求められる条件としては、実際の地形に対する正確さや情報の豊富さが強調されがちだが、「美しさ」も不可欠である。必要な情報が整理され、見やすくデザインされた地図は美しく、使いやすい。江戸時代の日本の地図の文化が発達して、多種多様な図が作られ、普及した。伊能忠敬(1745~1818)の製作した「日本沿海興地図」(8枚)は、その中でも最も美しい図の一つである。この図の美しさを支えているのは十数年にわたる膨大な測量の成果で、それは図自体の中にされげなく、かつ緻密に描き込
まれている。海岸線や街道沿いをたどる朱線は忠敬とその測量隊が自ら歩いたルートであり、北は人跡まれな蝦夷地(北海道)の砂浜から南は薩摩(鹿児島県)の島々にまで及ぶ。山や岬に集中するやはり朱色直
線は、道中の各地から方向を確認したもので、「子一分(北からわずかに東)」といった注記が加えられている。
 この図は「沿海」と名付けられたとおり海岸部の測量を主としているため、現代の等高線のような地形の平面的な表現はないようだが、遠望の姿で折り重なる山々の淡い緑は海の青と相まって図に品格をもたらしている。また現代の眼で見ると、この図全体には特に東西方向に多きなずれがあることが指摘されているのだが、そのことを差し引いても、見るものを圧倒する迫力を持っている。
 原品を見られる機会は少ないが、今回短期間ながら8枚のうち4枚を展示するので、実際に体験していただれると幸いだ。さらに当館ミュージアムシアターでは、ここに述べた図の詳細をスクリーン上で確認できるので、併せてご覧いただきたい。  (   調査研究課長・田良島 哲)