大きくひらいて立つ鉢である。見込みをのぞけば、釉層に斜めに入る細かなヒビが光を受けてキラキラと輝き、まるで澄んだ水面を見るようである。
 これは、中国・南宋時代(1127~1279)に官窯で焼かれた青磁。つまり皇帝が命じてつくらせたと考えられる貴重な器である。
 歴史に埋もれ、長く幻であった官窯に光りが当てられたのは、20世紀初頭のことであつた。清(1644~1912)が崩壊し、世界が知りえなかった中国歴代王朝にまのわる文物コレクションの存在が明らかになりつつあつた。古来中国の青磁に親しんできた日本人にとっても、究極の美をそなえるであろう官窯青磁の解明は、大きな課題となる。そして1930年、宗教家で、探検家でもある大谷高瑞によつて窯址の一つが発見され、官窯青磁研究は佳境を迎えた。
 まさにそうしたなか、この鉢は












中国・南宋時代(12~13世紀)



青磁輪花鉢
ふいに日本に姿をあらろしたのである。34年、金沢で開催された売り立てで、古美術商繭山松太郎の目にとまつた。その後建築家横河民輔の手に渡る。中国陶磁の蒐集家として世界に名の知られる横河が、この鉢を手にして「コレクションの画竜点晴」と歓喜したという逸話がのこる。
 現在、東京国立博物館にて開催中の台北故宮博物院展では、清の皇帝が集めた典雅な官窯青磁が出品されている。それらと比べると、この鉢はやや趣が異なる。紙のように薄く軽く、そして大きくゆがんでいる。厳しい管理のもと、破棄されておかしくなかつたはずであるが、その釉調の比類ない美しさによるのであろう、奇跡的に時代を超えて人々をひきつけてきたのである。
   (主任研究員・三笠佳子)