伝藤原行成筆  平安時代11世紀



升色紙
「升色紙」は「寸松庵色紙」「継色紙」とともに三色紙と呼ばれ、古筆の名品として尊重されている。古筆とは、本来は古人の筆跡を意味するが、今日では平安時代から鎌倉時代中期ころ
の遺品で、主として歌集を書写した筆跡のことをいう。
 これは、微細に砕いた雲母(きら。花崗岩の雲母)を撒いた料紙に、中古三十六歌仙の清原深養父の和歌
色紙と呼ばれるが、もとは升型の冊子本で、伝来の途中に分割された。名匠はその形にちなむ。
 この一幅は、方形の紙面に墨をたっぷりふくんだ筆をおろし、「いまはゝやこひしな/ましをあひみむと」と上句2行に執筆し、広めた空間をとって「たのめしことぞ」と筆を進め、「いのちなりける」を3行目にかにませめように書写する。
 墨の潤渇や行と行との空間の扱いから、平面である色紙に奥行きが感じられる。
 また、書き出しは一文字一文字を離して書くが、次第に連続して書き進める。さらに3行目の「たのめ」などは、一つの文字が持つ空間の中に次の文字を取り込むような書きぶりを見せ、「し」は長く伸びやかな字形で表現している。筆の動きはリズムカルで流麗で美しく、奏でられる音楽のようにも感じられる。筆の流れを追い、速さの違いや造詣の美しさから筆者の美意識を追体験してほしい。
 藤原行成(972~1027)によって完成された和様の書から、新たな美の典型を模索し、優美・繊細から軽妙、洒脱へとゆるやかに姿を変えていった時代の書で、筆者として伝えられる行成より下がった11世紀後半の書写と考えられる。平安時代の料紙工芸、和歌文学、巧みな書の美しコンポレーションである。
    (副館長・島谷弘幸)