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 No1 大日方邦子  佐伯泰英 宇野亜喜良   原ゆたか  トンプソン・ルーク   
 
 ひたむき、愚直、献身・・。自己犠牲が求められるラクビーのフォワード陣の中でも、この人ほどこうした言葉が似あう選手はいない。ひたらす体を当て密集に突っ込んでいく姿に、実況のアナウンサーは「泣けてくるほど頑張る男」と絶叫した。
 ポジションはロック。ラクビーワールドカップ(W杯)のスコットランド戦ではチーム最多18回のタックル。全力を出し切り試合後はしばらく立ち上がれなかった 
  W杯連続4大会、14試合出場は日本最多だ。
 中学時代にラクビーを始めた。ラクビー王国ニュージランドでは遅い。高校で本格的に取り組み始めた頃、父ディピッドさん(68)に言われた。「競争が大事だ。何かに挑戦するなら、正しい方法で、いつも100%の力で取り組みなさい」
 父も元カンタベリー州代表の選手。28歳で首の骨を折り引退、オールバラッックスには届かなか
った。
 教える姿を見たことはあっても、父がプレーする姿を見たことはない。日本の草野球のように、地域の人たちが楽しむラクビーや、仲間に誘われてのブレーには、絶対加わらなかったからだ。全力を出さなくていい試合はしたくない。その思いと無念が背中から伝わってきた。100%の力を出さないなら試合に出るな、と受けとめた。
 どんな環境にいても、全体練習 
  
 「家族と一緒にいるのが一番幸せ」。この日もママシャリで娘を送り届けてから参加した=大阪府東大阪市、滝沢穂子撮影 の前後に独自の練習を加えるなど努力を続けた。「僕は『めっちゃデカい』じゃない。『速い』じゃない。『強い』じゃない。僕のstreng(強み)は努力。誰よりも努力できる」
 家族の支えなしではプレーできない。15年W杯の後、家族への負担を理由に代表を引退。だが18年6月の日本対イタリア戦、体を動かしながら前のめりに試合を見つめる夫に、妻ネリッニさんは言った。まだプレーしたいんじゃないの?
 もう引退したんだ、家族といられてハッピーだ。そう返していたが、何度も話し合いを続け、前向に。旧知のトニー・ブラウン日本代表コーチに電話をかけて、尋ねた。おじちゃんのロック要る?
 そこから代表復帰、最年長の38歳にして日本を発のW杯ベスト8へ押し上げる道筋が始まった。
 今期で引退を表明。1月19日、秩父宮ラクビー場での試合が最後の雄姿になりそうだ。
     (細川剛毅)
 遂にこの日がやって来た。
五歳になる息子と一緒に「大脱走」を観たのである。

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 ジョン・スタージェス監督の「大脱走」。お気に入りの映画は他にも沢山あるが、これまで一番繰り返し観たのは、間違いなく「大脱走」だ。出会いは十歳の時なので、息子は僕より五年早い。DNAのなせる技か、息子の趣味嗜好は明らかに僕と似通っている。好きな食べ物も、好きな女優さんも、好きな怪獣も僕と同じ。絶対に彼も「大脱走」が好きなはずと僕は確信はいいた。このところ、息子は少しずつヒーロー物から卒業しそうな気配を見せており、今がチャンスと踏んだのだ。
 息子は保守的な性格で(実はそこも僕に似ている)、気に入った映画は何度も観るが、初めてのものにはなかなか手を出さない。あまりしつこく勧めても機嫌を損ねるだけなので、「『大脱走』というえらく面白い映画があって、僕
息子と「大脱走」を観たら
  当然息子はドイツとイギリス・アメリカが戦争していたことも知らないし、捕虜の概念も分からない。そんな彼が「大脱走」の世界に入り込むのはなかなか難しいようだ。冒頭こそ食い入るように観ていたものの、三十分で飽き始め「もうそろそろ別なのいいかな」と脱走計画が本格化する前にリタイヤ。「待て、息子、これから面白くなるんた」と言いたかったが、無理矢理観せられることで、逆に映画嫌いになったら困るので、ここしすんなり引き下がる。
 三日後の朝、彼が目を覚ます頃を見計らって、さりげなくリビングのテレビで「大脱走」を流す。ほったトンネルで捕虜たちが一人ずつ逃げる、一番盛り上がる場面。早速息子は目をこすりながら「   はこれを息子と二人で観るのが夢だったんだ」とだけ伝えて、無理強いはしないでおいた。彼の眼のつくところにそっとパッケージを置いたりして、注意を喚起。
 数日後、突然、「『大脱走』観てもいいよ」と息子。この機を逃がしてはならぬと、僕は原稿書きの手を一旦中断、ディスクをセットした。

 人生はハッピーエンドばかりではないことを、息子がうけいれるのはいつのことになるか。とりあえず五年後。もう一度「大脱走」を見せてみようと思う。   何歳になるの」と寄って来た。「『大脱走』かあ」と一度は顔をしかめたものの、画面のあまりの緊迫感に、案の定、食らいついた。そのまま僕らはソファに並んで早朝から「大脱走」を観ねことに。
 脱走当日のアクシデントの数々に一喜一憂し、バイクで颯爽と逃亡するスティーブマックイーンに目を見張る息子。期待通りのリアクションに僕は心の中でガッツポーズ。
 ところが観終わって直後、「全然めでたしじゃなんじゃん」と彼。確かに彼がこれまで接してきた「物語」かすべてばハッピーエンド。逃げて大半の捕虜が死んでしまうこの結末は衝撃だったようだ。「でも、ぼ、それでも生き残ったマックイーンをやっているじゃないか」「全く思わないか。全員逃げのびると思ったのに。この結末はだめだ」
(令和元年)2019.12.22(日)   朝日新聞夕刊より