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 少女の桑摘み姿に心を奪われてしまつた男。さあ大変。かいこも繭づくりの段階に入ってしまうと、あの子も外へ桑摘みにでることもなくなってしきいます。
 まるであの子もかいこと同じ、繭ごもりするように、母親の下ですっかり監視に包まれしまつて、男がしのび込むすきは
、どこにもない―。
 男もすっかりふさぎ込んで、「気持ちが一向に晴れない。あ―、オレも繭ごもりみたいだ」と、嘆くので  あの子はまるで 愛の繭ごもり
す。
 でも、繭ごもりをしたのが女の子なら、今や彼女はきらきらと光る美しい繭の中で限りなく体を透明にしながら、絹糸を吐きつづけているはがです。
 それは愛されることを知ったある子の、美しい変身かもしれません。一吐く一吐く、愛という美しい繭を身にまといつづけているのでしよか。
 愛は焦ってはいけませんね。
(富山・高志の国文学館長中西進)
  この5月、生物学者の本川達雄さんと「ナマコ天国」(偕成社)という絵本を出版した。かつて旅先の海ででナマコと初めて出会った。「ぽて―っとした姿が最高で、とりこになりました」ナマコには目も心臓もない。チクワのような筒状の体に口とお尻がある。砂を食べ、そして排便する。そのシンプルだけど奥深い生態を紹介した。
 2011年の東日本大震災後は、地震や津波、原子力発電所に関連した作品を作った。身の回りから電気のありように目を向けた「でんきのビリビリ」(そう
えん社)は昨年、世界的絵本展に入選。3月に刊行した童謡「いつか、太陽の船」(新日本出版社)は、被災した宮城・気仙沼から北海道・
根室に移住した人たちを取材し、挿絵を手がけた。その間に深まったのがナマコ愛だつた。大量のエネルギーを使って利便性を追い求める気ぜわしい世の中と真反対の生き様が、格好よく見えた。「感じちことを体に入れてシンプルに表現する。理想はナマコばあちゃんになること」      (田中彰博)
 「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝」として指定される「国宝」。その1115件(昨年11月1日時点)すべてを解説した「国宝事典 第4版」が美術印刷の便利堂(京都市)から刊行された。旧版から約40年ぶりの改訂で、図版のほとんどがカラー化されたほか、この間の調査・研究で得られた新たな学術的知見も反映されている。  
 便利堂の国宝事典は、52~61年に7巻刊行された「国宝図録」をもとに、1冊本として61年に刊行。68年と76年に増補改訂されたが、その後は絶版となつていた。国宝だけを集めた事典類は、美術全集ブームもあり毎日新聞社の「国宝」(全5巻別冊1冊、84年)や講談社の「国宝大事典」(全5巻、85~86年)なとが刊行されたが、「コンパクトにまとめた類似の事典は出なかった」と便利堂の鈴木巧社長(53)。
 今回の第4版は1887年(明治20)年創業の便利堂の130周年と文化財保護法施行65年を記念し、43年ぶりとなつた。
 新たに国宝指定された94件を加え、ページ数も約200ページ増えた。 
 絵画や彫刻、工芸品などのジャンル別に時代順に配列。それぞれの文化財には、文化庁の調査官らが執筆・監修した解説や図版がつく、また、用語解説や国宝年表、国宝目録、索引も充実させた。
 最大の見どころは、豊富なカラー図版だ。便利堂の写真工房が撮りためてきた写真や新たに撮影した写真を多数掲載し、総数で1627点にのぼる図版はほぼ全店をカラー化した。
 本編に収録しきれなかったカラー図版について、別掲図版として収録した。   刊行された「国宝事典 第4版」=いずれも便利堂提供
  たとえば、発見直後に便利堂が撮影した鮮やかな奈良県明日香村の高松古墳の国宝壁画など貴重な写真が含まれるほか、四天王像などは、奈良・法隆寺や東大寺など各地の寺院所蔵の作例を多数紹介し、時代順に様式の変化などを見比べることもできる。
 解説には、奈良・興福寺の旧金堂に安置されていた四天王立像が一昨年、本来の南円堂に移されたことなど研究の進展に伴う新知見も反映された。
 写真工房のカメラマンも務め、事典に編集に備わった清康太朗さん(26)は「文化財を大切に思う人がいなければ残らない。美しい写真を通して、いま生きる人の心に文化財を残すことができれば」と話す。鈴木社長は「日本の貴重な文化財に100年以上にわたり撮影・印刷などで携わってきた蓄積を集大成した事典。文化財の素晴らしさに触れてもらい、後世に継承していく一助になれば」と話す。
 国宝事典は754ページ。税別8500円。問い合わせは便利堂(075・223・8906)へ。
       (久保智祥)
 (令和)2019.5.6(木)   朝日新聞夕刊