バンデットQ ブリキの太鼓                 
  
 
 破綻する作家 白昼夢の映像美  予告編
 大学生のとき、オールナイト上映で見ました。何が言いたいのか全然分からなったけれどラストで感動した、初めての映画です。
 主人公はフェリーニ自身を思わせる映画監督のグイド。スランプに陥って湯治場にやってくると、愛人や仕事仲間が追いかけてくるのでそこで、幼少期のブドウ酒風呂での楽しい情景や浜辺に住む娼婦と踊って新譜に罰せられたことなどを思い出す。テーマは行き詰まったクリエーターの苦悩で、個人のちっぽけな問題だけど、普遍的なものです。一方で、グイドが夢の中で女性たちを支配しようとする姿は、キリスト教的な父権主義が表れていて、女性や自然の支配が強いアジアにはない感覚でおもしろいと感じました。
 終盤、追い詰められたグイドは思わぬ行動に出ます。登場人物
が増えて物語が複雑化すると、いつまでたつても終わらない。古代ギリシャ演劇ではこのような時、人間の力を超えた絶対的な神が機械仕掛けで登場するです。この映画では宇宙ロケットの巨大は発射台。結局ロケットは発射されず、盆踊りの櫓みたいなって、その周りを登場人物が手をつないで「人生はお祭りだ、一緒に過ごそう」と言って踊るんです。
 フェリーニがすべてをさらけ出して、自己と物語の破綻をそのまま魔法のごとく映像美に作り替えた、奇跡的な映画です。年を重ね、改めて見て内容が全部理解できた。イラストは、グイド自身を重ねた、風に吹かれて旅するテントを描きました。妄想と現実がてんこ盛りに混ざり合っている感じですね。 (聞き手・石井久美子)
 大戦下 成長を拒む3歳児の視点 予告編
  原作は、ドイツの作家ギュンター・グラスの代表作。ダンチヒ(現ポーランド・グダニクス)を舞台に、自ら3歳で成長を止めてしまつた主人公オスカルの目線を通し、ナチス台頭から敗戦の混乱期にひずむ社会や人間模様、生と死、愛などが生々しく描かれています。
 オスカルは、母親の胎内に宿る前から知能を授かり、汚れた外界や悲観的な未来に嫌悪を抱いて生まれてきます。母親の「3歳になったらブリキの太鼓をあげるわ」という言葉を一筋の光明に、3歳までは発育することに。太鼓を手に入れると、猥雑な大人への途を断つために階段から身を投げ、成長を止めてしまう。また、奇声を発してガラスを割る特殊な力も備えます。
 主人公にすごく共感を覚えましたね、子どものままがいいって。
 劇中、オスカルは太鼓を肌身離さず持ち歩きます、取り上げられそうになると奇声を上げて抵抗するんです。大人になれば「好き」だけじゃままならなくなるから。僕が映画を見たのは大学生で、夢と現実のはざまで揺れていた頃。社会へ踏み出す不安だとか葛藤なんかもリンクして、とても心に印象付けられた作品です。
 僕ね、絵本作家になるために日本画を専攻したんです。明るすぎない色と余白にひかれて。オスカルが見た世界と同じ、世の中はクリアなことだけじゃないし、影のない人もいない。だから、僕は黒い紙に光を与えるように描くし、観る人の想像の余地を奪わないように全てを埋め尽くさない。その感性が、オスカルを乗せて汽車が走り去る場面に表された気がする。
                   (聞き手・井本久美)
 
 
 人生に賭ける挑戦者の生き方  
  「命を賭けて挑戦しなければ何物をも得ない」。少年の頃に見て、そんな感慨を持った映画です。「いい大学を出て、いい会社に入って」という型にはまった生き方を押しつけられるような悶々とした思い出の時に、違う生き方を見せられて衝撃を受けました。
 冒険に挑むパイロット、画期的なエンジンを作るエンジニア、そして女性の前衛芸術家。それぞれが夢に挑戦して挫折し、そこには当然リスクがあり、彼らは命の危険に直面してしまう。
 3人とも人生の挑戦者なんです。僕と同じ、敷かれたレール上では進めない人間たち。皆魅力的ですが、特に前衛芸術家という職業はインパクトがあった。当時の日本では前衛芸術家は珍しく、芸術、しかも前衛で身を立たせることが成り立つとは思っても
 みなかったので、フランスってすごい国だなって、純粋に外国への憧れを持ちました。 
 映画では海に浮かぶ要塞が重要な役割を持ちますが、これが非常にかっこいい。元々僕は、秘密基地を作って遊んでいた子どもがそのまま大人になつた感じでした。映画の要塞のような巨大な秘密基地を作りたいと常々思っていた。それで、岡山、犬島の精錬所の廃墟を秘密基地みたいな美術館に再生したり、広島・百島にアートセンターを作ったりしたんです。造船所が近くにある百島では、大型船のブロックを台船で運ぶ光景が見られ、それが要塞を連想させてわくわくします。そんな光景を撮った写真にドローイングを重ねて、今回のイラストにしました。
                    (聞き手・安達麻里子)
 (令和元年)2019.6.7(金) 朝日新聞夕刊