調布駅前広場  漂流郵便局 
ブリキ製の私書箱に収められ、漂流を続ける郵便物
 「もう一度、顔が見たい」水難事故で息子を亡くした母親は、こうつづる。「じいじ」は、「かわいらしいちゅぅがくせいをみると、まぁちゃんをおもいます」とひらがなで呼びかける。広島カープのファンだつた「お父ちゃん」にと、優勝を伝える新聞記事をぎゅうぎゅうに詰めた封筒もある。
 香川県三豊市の離島、栗島にある「漂流郵便局」。伝えたい思いはあるけれど、どこに送ればいいか分からない。そんな宛先のないはがきや手紙を預かり、展示している。
 1991年まで栗島郵便局という本当の郵便局だつた。2013年、香川県の離島を中心に開かれた瀬戸内国際芸術祭でのこと。東京芸大の院生だつた久保田紗耶さん(31)が、現代アート作品としてよみがえらせた。

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 薄緑色の壁や大きな木製カウンターは当時のまま。はがきが入るブリキの「私書箱」はピアノ線につながれ、宙に浮いているようだ。
 局長は、持ち主でもある中田勝久さん(85)。栗島郵便局に45年勤めた。芸術祭の会期限りの試みだつたが、「やり場のない思いを受け止める場所が必要」と訴え、ボランティアで管理を引き受けた。
 毎日届く20通ほどの郵便物を読み、日付入りのスタンプを押す。6年間で3万6千通が寄せられた。局を開けるのは第2、第4土曜の午後1時~4時。国内外から多くの人が訪れ、読みふけったり、ペンを執ったり。自分が出した手紙を探しに来る人もいる。
 28日から、3年に1度の芸術祭の秋会期が始まる。「心を癒し、気持ちに整理をつけられる場所でありたい」と中田さん、思いのこもった無数の手紙たちが、今日も静かに漂っている。
       (文・尾崎季海 写真・小杉豊和)   漂流郵便局
  (香川県三豊市) 
 
 新型兵器イージス・アショアの配備候補地とされた陸上自衛隊の新屋演習場から、秋田市街を港の方へ約4キロ。「日本最後の空襲」で知られる土崎地区がある。
 195年8月、日本が御前会議で降伏を決めた14日から、連合国に伝わる15日にかけて米軍が各地を空襲。日本有数の製油所があった土崎には爆弾約1万2千発が落ち、少なくとも民間の96人を含む256人が亡くなった。
 この地に残る空襲の記憶が、イージス・アショア配備反対につながる形で語られ始めている。
 今年8月25日、空襲を演奏で表現する秋田吹奏楽団の公演が土崎であり、体験談を元に描かれた絵本が朗読された。作者の佐々木久春・秋田大学名誉教授(85)は舞台あいさつで「例えばアショアなんてのは、それがあることで戦争の被害を受けるかどうかという問題まで含みます」と語った。
 朗読したのは4歳で空襲に遭った伊藤津紀子さん(79)。土崎の自宅を訪ねると、ひじから先ほどの大きさの爆弾の破片を袋から次々と取り出した。触ると怪我をしそうな鋭利さだ。12年前に始めた語り部の場で示してきた。
 爆弾は石油タンクに加え津紀子さんの家も吹き飛ばした。「裏の小学6年生のお兄さんは防空壕を出た隙におなかを破片に貫かれ、出血多量で亡くなりました」
 イージス・アショアの新屋配備計画には、「相手はそれを破壊しようとする。住宅地が近いのに秋
田をばかにしている。この一帯も犠牲になるでしよう」と話す。
 夫の記久夫さん(79)は食う雌雄犠牲の追悼式を毎年開く土崎港被爆市民会議の事務局長だ。今年の式典で、市議会に新屋配備に反対するよう陳じようしたと報告。その陳情書にこだわりの一文を入れた。
 「アショア配備は一地方都市の問題ではなく、(政府は)日本列島どこの地域でも基地化できるように要求しているのでは」
 記久夫さんには、空襲の記憶を紡ぐ地のそばに新型兵器が置かれかねない今の秋田が、辺野古沖で政府が米軍施設建設を進める沖縄と重なる。「沖縄がなんぼ反対しても、秋田も同じことをやられている。安全保障からみれば民主主義はくそ食らえだと」

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 市民会議も協力して昨年できた「土崎みなと歴史伝承館」を今年7月、参院選秋田選挙区の取材の合間に訪ねた。津紀子さんが触れた、腹を貫かれた小学生の服が空襲の展示室にある。江戸時代に北前舩で栄えた土崎の「曳山まつり」も紹介され、「戦火にも屈せず曳き継ぐ港魂」とうたう高さ11.5メートルの山車が置かれていた。
 ちょうど祭りの日で、各町内から山車に世相を映す言葉が踊る。「ここにはいらね、地上イージス」の山車のそばを夕方、遊説後に寄った秋田県出身の菅義偉官房長官(70)が通り過ぎ、握手やスマホ撮りに応じていた。
 参院選では新屋配備に反対した新顔が自民党の現職を破った。伊藤夫妻には空襲について学んだ人たちから、イージス・アショアのことも知りたいという相談が寄せられている。
            (藤田直央)
 令和元年(2019)9月20日   朝日新聞夕刊