No1   芥川賞 浅田次郎 角田光代 木内昇 李龍徳 吉村満壱
黒田夏子
日本語とは問い続ける83歳
芥川賞から7年黒田夏子さんが新作小説 

















  芥川賞を史上最高齢の75歳で受賞してから、7年あまり、作家、黒田夏子さんの新刊『組曲 わすれこうじ』(新潮社)は、受賞後に書き始めた17の短編を再構成した。はじめての新作小説だ。受賞作「abさんご」と同じ横書きのスタイルで、日本語表現の新たな地平をひとり突き進む。
 10年に1作を仕上げる「マイベースじゃなきゃ書けないタイプ」。受賞直後はエッセーの依頼が相次いだが、だした小説は40代で書いた過去作を改稿した「感受体のおどり」のみ。慌ただしさとは無縁だった。
 「年齢的にも、無理に締め切りをせかしても書けないだろうなと、思いやってくださったのだと。いわゆる後期高齢者だったわけですから」。一方、「ぽつん、ぽつんとあちこちに、自分では後で長いものにまとめようというつもりで書いていた」のが、タイトルに組曲を冠にした本作だ。
 物語は、家庭の事情で「二代前の血族」の家にあずけられ、「養育がかり」に育てられている「幼年」の視点でつつられる。ところが「幼年」はすでに「老年」といえる年齢になっていて
かな多用こまかい原則の言葉選び 
 身の回りにあったものほたよりに、幼い頃のおぼろげな記憶をたどっている。
 ひらがなを多用する小説の文章に人名地名は一つもない。その独自のスタイルは、そもそも横書きを選んだ理由と地続きだ。
 「いわゆる文学作品の慣習をそとまず取り払って、もともとに戻ってやってみたいというのが初めのきっかけです」。それが、「かなりこまかい原則を決めてやっている」という言葉遊びにつながつていく。
 その象徴といえるのが、小説のなかで使われる「なよぴか」「うつつなく」といったふるいことばだ。「もし自然に大和言葉で言えるなら、漢語の熟語みたいなものは使わないで、言い換えてみたい」。こだわりはそのまま、日本語とは何かを問い直すことになる。
 「自分はいつたい、この言葉をかなにしたいのか漢字にしたいのか、いちいち問い直しながらつかつていこうと、それでやたらに暇がかかるんですけどね」。83歳の前衛小説家は、歩みを止めていない。    (山崎聰)
 (令和2年)2020.7.9日(日)   朝日新聞夕刊