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 細身和之           No1 
 
 

  
 
 今夏刊行の作者にとって第7詩集となる『ほとぼりが冷めるまで』から。商会の一遍は末尾の前に置かれていて、末尾は詩集と同名の作品になっている。
 全編四つのパートに分かれているが、最期のパートで、85歳で亡くなった父の最後と、それ以後の詩人の内部を襲った生活のなかの空白が、心象スケッチ風に描かれている。
 作者は丹波篠山在住。ここかに京都まで通勤している。読んでもらったら察しがつくとおり、筆者の周辺では今ではとてもめずらしい部類の、生まれ故郷にあって、両親と子どもとも
父が他界 気づいた存在の深さ 
 の三世代同居に近い生活を続けてきた。そこで父が亡くなって、ふと気づくと、いつのまにか中心を失って、残された家族はどこかちぐはぐになっているというのである。母と妻が折り合いが悪いとか、夫婦のあいだに口喧嘩が絶えなくなったとか、ここは額面通りに取る必要はない。どこかたががゆるんでしまつた。空虚に晒された内部意識が主題になっている。ちなみに冒頭にでてくる家族座という詩では、星座をかたちづくる星と星は互いにどれほどの力で引き合っているかとうたわれた。ただそこでは父母の星は意識になかったという。父の居なくなってあらためてその存在の深さに気づかされる。
 なんでもない抒情詩にもみえようがきびしい内省化に満ちた一遍、追悼詩としても出色だ。
 (令和2年)2020.12.9日(水)   朝日新聞夕刊