高階 秀彌 美術評             
 偏愛 美人画コレクション
 徳島市の徳島県立近代美術館で開かれているのは、個人では国内有数の近代美人画コレクションで知られる培広庵氏の収集品を中心とした「美人画の雪月花―四季とくらし」展。全105点を四季や芸事、物語といったテーマごとに分け紹介する。
 植物をあしらつた着物や小物などの女性の装いは、季節感とともに作品の時代設定を示唆する中村貞以の「惜春」は島田髷を結い、お端折りをしていない着物の裾が地面につかないよう帯の下の志古貫でたくし上げた江戸時代の少
 アクの強さへの傾倒
 古今東西、美しい女性像は人の心を魅了する。個人コレクターによる近現代日本の美人画コレクションに焦点を当てた展覧会が、徳島、島根で開催中だ。時代の空気や風俗を映した作品の数々は、時に画家やコレクターのフェティシズムをものぞかせる。
 女を描く。
 培広庵コレクションを特徴付けるのは、東京や京都に比べて知名度の低い大坂画壇の充実ぶりと、ローカルへの目配りだ。金沢で活躍した紺谷光俊や岡山出身の大林千満樹など「良い仕事をしているがあまり知られていない作家がポツポツ入っている」と友邦伸一・上席学芸員。
 培広庵氏の偏愛はもう一つ、理想化されたオーソドックスな女性像とは一線を画した、個性的で退廃的な大正デカダンスの美人画へと向く。岡本神草「傘の舞妓」は眉が太く、歯をむき出して笑う口元は実写的かつ、どこかグロテスク。よりアクの強い絵が欲しい培広庵氏だが、妻に断念することもあるという。
 9月1日まで。26休み、一般1千円、高校生500円など、徳島県
 立ちのぼる色っぽさ
 
 島根県安来市の足立美術館は、実業家で美術コレクターの足立全康氏が1970年に開館した。特別展「美人画 うるわしき美の世界」では、没後70年を迎える植村松園をはじめとする多種多様な美人画37点が並ぶ。
 京都で四条派の技法を学び、江戸時代の風俗などに取材した優美な女性像で人気を集めた松園は、東京の鏑木清方と並んで美人画の巨匠と称される。一方、伊藤深水ば実在する同時代の女性を得意とした。古風な柄の着物にパーマ髪、真珠の指輪と和洋折衷の装いできめた「ペルシャ猫」の女性は、昭和の名女優・小暮実千代がモデル、群像が「夢多き頃」に描かれたお下げ髪の女学生は、深水の娘である女優・朝丘雪路だ。
 足立氏は色っぽい女性像を好んだ。お気に入りだつたという深水「湯気」は、はだけた胸元やぬれ 立近代美術館(088.668.1088)。
 ないよう口にくわえた着物の裾、明治後期の朦朧体の影響を受けたぼかしの技法が湯あみの情趣を盛り上げる。年若い舞妓や裸像を好んで描いた石本正は、透ける紗や絽の衣服を使い、豊満な女性の姿態を執拗なまでになまめかしく演出する。
 気になる絵があると借りきて1週間ほど手元に置き、飽きなかったものを購入したという。「人間の女性は文句を言うが、美人画は文句を言わない」という名(迷?)言に、逸品を求めずにはいられないコレクターの性がにじむようだ。。
 8月30日まで、入場料は大人2300円、大学生1800円など、足立美術館(0854.28.7111)
      (田中ゑれ奈)
   記号化された詩的な画風で知られる20世紀スペインの巨匠ジョアン・ミロ(11893~1983)。絵画や版画に比べて目にする機会の少ない彫刻作品を朝メタコレクション展が、京都・大山崎のアサヒビール大山崎山荘美術館で開かれている。
 ミロは50代になって本格的に彫刻を手がけ、無90歳で亡くなる間際まで絵画と並行して政策を続けた。今展では、ミロの彫刻コレクションとしては「国内最大級」という館所蔵14点を一挙公開している。
 ミロは身の回りのものや廃物を彫刻の原型に使い、手びねりのパーツと組み合わせて作品をつくつた。「人物と鳥」の素材はパン、「女性」はお皿、「人形の頭と背中」は潰れた空き缶と首の取れた人形。既製品の形態をそのまま取り入れた彫刻は、抽象的な絵画とはひと味違う遊び心を感じさせる、
 ミロは鋳造にも積極的に関わり、現場にある道具を即興的に型取りして作品にしたり、作業の途中で☆彡しずくなどのモチーフを描きに加えたりした。「ミロにとって信頼する職人たちとわいわい仕事をする時間が、孤独な絵画制作に向かうためにも必要だったのでは」と、川井游木学芸員は推測する。
 9月1日まで、26日休み、一般900円など、アサヒビール大山崎山荘美術館(075.957.3123)    (田中ゑれ奈)  京都・大山埼で来月1日まで ミロの彫刻 一挙公開 
 国を超えた地球規模の世界普遍化と地域の特色や特性を意味する混成語に、クローバルしローカルを合わせたグローバル化がある。スペイン、カタルーニ州のバルセロナは、芸術文化的な都市だ。
 カタルーニャが輩出した20世紀の前衛芸術の巨匠たちにピカソはキュービスム(立体主義)を生み、ミロは抽象芸術を探求し、そしてダリはシュールレアリズム(超現実主義)を実験した。さらに、世界遺産サグラダ・ファモリアの設計者ガウディもいる。
 1714年、イベリア半島カタルーニャの都バルセロナはスペインの軍事勢力によって陥落した。固有の言語であったカタルーニャ語は教育や法律の場所
 世界に影響与えた街の近代化
 から排除された。ガウディは熱烈なカタルーニャ主義者であり、誰に対してもカタルーニャ語で話しかけたと聞く。独自の言語は、物事の見方・考え方を組み立て、新たなイメージゅ紡ぎ出す力を持つ。
 本展では、19世紀に産業革命を経験し、1859年に都市計画の誕生からスペイン内戦(1936~39)に至る約80年間のバ
ルセロナの近代化の歴史を、絵画を中心に彫刻、家具、宝飾品、図面など約150点で検証する。1888年に開かれたバルセロナ万国博覧会が国際都市文化の火付け役となるが、それ以前の78年にバルセロナからパリに鉄道が開通し、交通網の発達が近代化に一役買っている。
 フランセクス・マスリエラ「1882年の冬」とジュアン・プラネッリャ「織工の娘」は、同年に制作さ
された油彩画。バブル経済が崩壊した82年を象徴している。前者はブルジョアジーに属する娘の未来への不安を、後者は繊維工場で働く少女の現実そのものを表現し、当時のバルセロナにおける富裕層と貧困層の対比を、2人の少女を通して物語る。
 19世紀末の日本とバルセロナの関係としては、バルセロナにおけるジャポニズムの資料とし2冊の和綴じ本「潜龍堂画譜 魚類之部」「いろは引紋帳」が展示されていて興味深い。西欧におけるジャポニズムの受容と広がりを見る思いがした。バルセロナは都市としてのポテンシャルがとても高く、世界の芸術文化に多大な影響を与えてきた地域といえよう。 
 (美術評論家・加藤義夫)
 2019.8.25(令和元年)(日)     朝日新聞夕刊