高階 秀彌 美術評  秋空の東塔  美術表1⃣         
  日本美術の古典で瀧図といえば、鎌倉時代の作、神体である瀧のみを描いた国宝「那智瀧図」がある。上部の岩峰には気高く崇高なイメージを与えるのは、神道をそこに見るからだろうか。他方、江戸期の葛城北斎「諸国瀧回り、下野黒髪山きりふりの滝」は千変万化する水の動きに注目した図で瀧が生命体のように感じられる。古来、瀧の表現は自然への畏敬の念とともに描かれてきたようだ、
 さて、日本画家・千住博(1958年東京生まれ)は空海によって開かれた高野山金剛峯寺の「茶の間」と「暖炉の裏の間」の障壁画計40面、総延長約40メートルの画面を崖と瀧で描き上げた(神戸ゆかりの美術館で展示)。微動だにしない「断崖図」と永遠に流れゆく「瀧図」の対比は、大いなる自然と永遠の時間を視覚化した秀作。本展は初期から近代までの主要な約30点で千住の世界を神戸市内の二つの美術館で紹介する。
 千住の瀧図に前述の古典作品とは
瀧の流れなみる「宇宙の時間」 
 違った趣を感じる。写生画でも写実画でもなく、生命の根源ともいえる水の存在を強調し、抽象化し、永遠の時間を追い求める。個展との違いはさらに、作品が持つ空間性にある。
 神戸ファッション美術館で展示されている2015年のベネチア・ビエンナーレ出品の大作「瀧神I!Ⅱ」は、蛍光塗料で描かれた白滝がブラックライトで照らされると青く輝く。それは奇をてらつた演出ではなく、光り輝くことにより昼から夜への時間の移り変わりを感じさせ、普遍的な時間の連続性を表現するものだ。インスタレーションとして環境空間を侵食し溶け込むことで、その場の鑑賞者を包み込む。
 本作を見ていると、人が光を知覚する作用に着目した米国のアーティスト、ジェヘムズ・タレル(1943年生まれ)と重なった。かつてタレルは展示室の天井の中央部をくりぬき、空の風景の移り変わりゆくさまを鑑賞者に届けることでも人の心に静寂をもたらす作品を創っている。2人の作品テーマの共通項は時間と光。それは宇宙の始原ビックバンの時間と光を追いかれるものだ。身近な瀧を描きながら宇宙の時間を感じさせる本展は、はるか彼方、何億光年先の光を感じながら、壮大な瀧の流れの中に「宇宙の時間をみる」展覧会といえよう。
       (美術評論家・加藤義夫)
     パメラ・ローゼンクラ「癒すもの(水域)」
 先端技術で変容する作品
 「決まることのないフィクション。すべて宙に浮かんだ状態として存在し、常に変容していく」岡山市で3年ごとに開かれる国際現代美術展・岡山芸術交流。「もし蛇が」という抽象的なタイトルを掲げ、9ヵ国18組の作家を迎えた今展を、アーティスティクデレクターのピエール・ユイグはそう説明する。
 会場の一つ、旧内山小学校の校庭に残る土俵には、古来、生死や健康、薬の象徴とされた「蛇」がすむ。パメラ・ローゼンクランツの「癒すもの(水域)では、アルゴリズムで制御された蛇が時おり鑑賞者の持つカメラなどの電子音に反応して動き、舌  2カ所で屋外展覧会  最先端テクノロジーを使って、形の定まらない「美術」の在り方を試みる作品がそろう屋外展覧会が岡山と香川で開かれている。瀬戸内国際芸術祭2019の秋会期も開催中で、瀬戸内エリアは屋外芸術イベント真っ盛りだ
 電子音に動く「蛇  岡山 
をチラつかせるように頭部のLEDさせる
教室では、死を免れない人類が不死身の人々を人質にとった未来世界を描くファビアン・ジロー&ラファエル・シボーニのパフォーマンス映画と撮影に使われたオブジェが展示されている。校庭のプールサイドを彩るのは、時間帯によって花の色が変わるよう遺伝子操作された特殊なアサガオ。作者のシーン・ラスペットは、人口肉の培養に使われる細胞や超低温で栽培されたバナナなどを使った弁当を近くのカフェで、数量限定で販売している
 林原美術館では、アプリを参加者が操作することで学習を重ねる人工生命体「BOB」を主体とした映像作品をイアン・チェンが展示している
 11月24日まで、祝休日をのぞく月曜と10月15日、11月5日休み。1会場のみ500円。全会場は一般1800円など。実行委員会事務局(086.221.0033)
春夏秋冬の音集め、再構成 香川 
 香川・丸亀にある日本庭園「中津万象園」では開催中の「聴像発景」。先端技術を駆使して音で時空を旅するevaiaと、サウンドアートの国際的先駆者・鈴木昭男、2人のサウンドアートによる「音の展覧会」だ。
 琵琶湖になぞらえた池を中心に近江八景を模した庭園で鈴木が仕掛けるのは、1996年から国内外で展開する「点音(おとだて)」。鑑賞者は耳のような足形のマークの上に立ち、その場所で聞こえる音に意識を研ぎ澄ませる。
 池を望む煎茶室「観潮楼」には、evaiaが自身の代表作「AnechoiSphere」を発展させたという作品。木立を隔てて瀬戸内海に面する園内で集めた春夏秋冬の音を、最新の立体音響システムで再構成。潮騒やつくばい、飛行機の音、カラスの声、子どもの歓声に近江の三井寺で録音された鐘の音が混じり、現実に聞こえる音との境界があいまいになってゆく。
 11月24日まで、水曜休み。「Anechoiechon」は祝休日のみ公開、ほかのevaiaの作品は平日も公開。大人1千円など中津万象園・丸亀美術館(0877.23.6326)
      (田中ゑり奈)
市井の人々の1枚
鬼海弘雄が展覧会
 奈良市写真美術館
東京・浅草寺の境内は彼のスダジオだつた。1973年から定点観測で市井の人を撮影してきた写真家鬼海弘雄(74)のライフワークが昨年、完結した。最後のシリーズ「PERSONA}まとめた初 の展覧会、奈
良市の入江泰吉記念奈良市写真美術館で開催中だ。朱塗りの壁の前で撮りたいと人が通るのをじっと待ち、声をかけてカメラを向けるのは日に1人が2人。ほとんどが一期一会だが、十数年を経て再会した人もいる、白黒のポートレートは、絶妙かつ時に唐突な意外性を帯びた短い文章とともに、外向きの顔や肩書の奥ににじむ被写体の人柄と人生を写し出す。       例えば、入れ墨をさけだしレンズをにらむ「クールミントガムをくれた青年」などもそう。「先が尖った靴を履いている男」は写っていない部分の装いまで確信させる説得に満ちている。白塗りの顔におちょぽひげを描いた「浅草芸人プチャリンさん」は、鬼海自身が展示の最後の一枚にと指定した。「ペルゾナ、仮面ですね。人は誰しも仮面を背負っていて、それも年齢ととも に変わっていく」百々俊館長は話す。
30日まで。15,21,28日休み。一般500円など。同館(074.22.0811) (田中ゑれ奈)
 2019.10.24(令和元年)(木)     朝日新聞夕刊