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 江戸中期に京都で創業、私で18代目になります。「新しい天体」が発表された年からすると、16代目が開高健先生に対応としたのだと思いますが、聞いていません。どなたがいらしたか商売柄、話題としないようにしていたのでしよう
 小説にある「甲羅のふ
本に登場するすっぽん料理店大市店主 

青山佳生さん(54)
 「おいしい」の追求ん゛味を守る
 
ちが柔らかくてベロベロしていて(中略)妙味である」や「深い金色のスープ」は、今も変わりません。しかし、しょうゆう、酒、鍋それぞれのつくり手は製造方法を変えています。先々代は「人の好みは変わるから、毎日研究して進歩しなければならない」と申しまし
てました。
 その言葉にならない、私もお客さんの好みや調味料、鍋の変化にあわせて、「おいしい」と言ってもらえるよう、日々、少しずつ味を進化させています。常連のお客さんは薄味込みか、普通がいいか、わかりますから、鍋を火から上げるタイミ
ングも変えています。
 代々の努力とともに、野菜など入れない、すっぽんだけの鍋という珍しさもあって、「新しい天体」に登場させてもらったのでしよう。志賀直哉先生の「暗夜行路」や川端康成先生の「古都」などにも登場しています。最近のお客さんは漫画の「美味しんぼ」を読んだ方が多いですね。
 味にこだわり、追求していくこと。それが、味を守ること。お客さんに満足して喜んでもらえる秘訣だと思います。

「新しい天体」  1974年刊 開高健 ◀◀多様化する食の情報
 「インスタ映え」するお好み焼きは、おいしいのか。
 「粉もの」料理の愛好家らでつくる「日本コナモノ協会」(大阪市)は昨年、はやりに乗って、「おおっ」と驚く派手な見た目のお好み焼きを作ろうと構想した。
 エビ、タコ、オクラをのせ、赤に紫、白、緑と彩る。生地も「ふんわり感」を強調するため、通常より厚みある3センチに。そんなアイデアを練り上げたが、味に話が及ぶとトーダウンした。
 インスタ映えの一品はエビなどの自己主張が強く、調和した味とはほど遠かった。とぃつて「飾り」だけ食べるなら、もうお好み焼きではない。試しに作って見た同協会の熊谷真菜さん(57)は「お好み焼きのおいしさは具材と小麦粉、ダシの一体感。それが堪能できなかった」。
 お好み焼き一つとっても、美味しさと見た目で別に考えた方ができるように、世の食べ物には味や食材、栄養、安全性といった、様々な「情報」が盛り込まれている。
 飢えていた終戦直後は、腹を    



「御馳走は山の水」に込めた問い
 満たし、命を維持できることが最も重要な食の「情報」だつた。その後の経済成長で「御馳走」や「おいしさ」へと比重が移った。

    ■    ■
 
 芥川賞作家、改稿健さんの小説「新しい天体」は1972年(昭和47)年に雑誌に連載され、高度経済成長かか第1次石油危機によって終わった直後の74年に出版された。
 東京・銀座のタコ焼き、松江のシラウオ、三重の松阪牛、京都のすっぽん・・。架空の官僚が、実在の美食や珍味を、その食材がとれる自然風土を店主ら
に聞きながら食べ歩く内容。取材で駆け巡った開高さんは「小説ともルポともエッセイともつかない」と振り返っている。担当編集者も「日本の近代小説のなかでも、ほとんど類がなく(中略)名実ともに食をテーマにした傑作」と記した。
 北の晴彦・元龍谷大学教授(83)=近代日本文学=は「未来への警告の書」と捉える。
開高さんが14歳で終戦の焼け野に立ち、飢餓に脅かされた経験が「文明のはかなさと、生存へのエネルギーを知る原体験」になたとみる。
 主人公が最後に「至純至高の御馳走」としてたどりつくのは、山の水だ。「繁栄した現代文明の底に大自然を見ている。繁栄の中で、『食』が命と自然とともにあることを説いている。
 70年代以降、ファミリーレストランやファストフードの普及で外食化が進んだ。海外から様々な食材が入るようになり、海外の高級レストランも次々東京に出店した。美食家は「グルメ」と呼ばれ、「1億総グルメ化」という言葉も使われた。
 食の情報が膨張する時代を象徴するように、79~81年には永谷園本舗(現永谷園)の1人の社員が、「新しい天体」の主人公がよろしく各地を食べ歩く仕事を任された。社長の命を受けて、「誰にも愛される味覚」を開発しようと国内外をめぐり、海外で出会った味をもとに生まれたヒット商品が「麻婆春雨」だ。
 消費者が食に重視する情報は次々変わる。今世紀に入り同社の日っと商品の一つは、健康志向を取り込んだ「1杯でしじも70個分のちから」をうたう即席みそ汁。広報担当の松山哲也さん(43)は「いまや健康志向は当たり前。ニーズが多様化してヒツト商品が生まれにくい」と話す。
 和食や「B級グルメ」といったご当地食への注目が高まっている。このような流行を食文化研究家の畑中三応子さん(60)は食べ物の「ファッション化」と呼ぶ。「腹を満たしたり舌で味わったりするだけでなく、食の情報を追い、頭で考える時代になつた」冒頭の「インスタ映え」しかり、食の情報は味覚や食欲から分離し始めたのか。「おいしさを、体でしっかりと感じ取ることが大切なじだいなのかもしれない」
 食の根源に命と自然をみた開高さんの問いかけは、いま生かされているのだろうか
            (平出義明)
 (令和元年)2019.8.27日    朝日新聞記載夕刊から