美御前御揃  ヤナイハラ I  白磁薄肉彫蓋付菓子鉢  丸木俊(赤松俊子)  長野県立歴史館  孔雀明王蔵 「望郷
「田植え   竹狗子図  水月観音像 花を摘む少女  雲崗5窟  雪松図屏風」  吉原格子先之図 
 
 
 超絶技巧の細密描写や、大胆な構図、鮮やかな色づかい。絵画の見どころは多彩だが、この肉筆画では何言っても、色の細密描写もない、影の部分だろう。
 夜の吉原遊郭。妓楼「和泉屋」では、格子越しに花魁たちが客を待っている。闇の明かりを放つ主な光源は、室内の大行灯と、外壁に掛けられた行灯、そして大小三つのちようちんだ。それぞれ放つ光の部分だけ顔つきや着物が浮かび上がり、幻想的な光景が生まれている。
 作者の葛飾応為は、北斎の三女。父同様、西洋表現に触れていたとみられ、描写には立体感も、光と影の関係もかなり正確だ。江戸以前の日本絵画で、夜を暗く表現すること自体が珍しいという。
 人物は、丸みを帯びている。太田記念美術館の渡邊晃・主幹学芸員は「簡単な形態で立体感を強調しているのではないか。それが、ファンタジックでメルヘン的な効果を生んでいる」と話す。
  中でも異彩を放つのが、格子越しに客と話すように見える花魁だこの花魁はかんざしだけが輝き、厚みのない黒い板のようだ。影の一部が格子のそとににじみ出ているように見えるのも不思議。光源の位置を考えれば、彼女の影が路面に落ちてもよさそうだが、それもない。
 画面中央で、すべての光を吸い込むブラックホールのように存在するシルエットが、見る者の視線も誘い込む。西洋の陰影描写やシュールレアリスム的表現に親しいだ現代の目にも、なじみやすい。
 漫画や小説、ドラマにみなり、注目を集める応為。作品群の中でも人気が高い理由がよくわかる。
  (編集委員・大西若人)
令和2年(2020.1.30)    朝日新聞夕刊