No1 洗礼者聖ヨハネ 近藤勇と鞍馬天狗 土田麦僊 「魚籃観音像」 鬼の行水」
「不完全」に込められたものは
 暴力沙汰を繰り返したあげく、人を殺した天才画家、死刑宣告を受け各地を逃亡する中でこの絵を描き、死の直前まで携えていた。
 ただこのヨハネ、何かおかしい。イエスを象徴する子羊と十字架型の杖とともに描かれるのが西洋美術の伝統かつ常識だ。だが、少年姿のヨハネの手にはただの棒、傍らには大人の羊。なぜ、こんな変化球を投げかけたのか。
 当時のローマ教皇庁大使の書簡などによれば、殺人事件から4年後、カラヴァッジョはこの作品を含む3枚の絵を持ちローマへ発った。教皇のおいのボルゲーゼ枢機郷らに絵を贈り、恩赦の口利きを頼もうとしたが、途中で誤認逮捕の憂き目に遭う。釈放された時、大切な絵を乗せた船は去ってしまつた。画家は絵を追って約100キロ北の港町まで歩いたが、船を見つけられないまま熱病で没する。皮肉にもその直後、恩赦が出たという。
 イエスの死により殉教したヨハネは旧約と新約の世界をつなぐ聖人とされる。救世主を待つ「不完全」なヨハネに自身を重ね、恩赦を乞うメッセージを込めたのでは、とは宮下規久朗・神戸大教授の説。「音写が出れば棒は十字架に、雄羊は子羊になる」と読む。
 一方、「カラァッジョは今で言う半グレ。罪の意識にさいなまれるタマではない」そういえばヨハネの顔は、開き直っているようにも見える。「私も少しキレやすくて、妙に共感してしまう」と宮下さん。何度過ちを犯そうが貪欲に救いを求める「不完全」さは、私たち皆の姿かもしれない。
        (田中ゑれ奈)
令和2年(2020.2.08)    朝日新聞夕刊