No1 洗礼者聖ヨハネ 近藤勇と鞍馬天狗 土田麦僊 「魚籃観音像」 「鬼の行水」
  「魚籃観音像」 牧島如鳩
  菩薩や天使集まって何を
 幻想的、あるいは超現実的。いや、そうした概念的な言葉では語りつくせない奇妙きてれつさが、この絵にはある。 
 手足を伸ばし、こちらを見据えて、大画面の中央というか中空に浮いているのは、魚籃観音、その周囲を、仏教に基づく菩薩や天女が取り囲む。のみならず、左上方にはマリアや天使とおぼしき、キリスト教の群像もことほいている。そのねっとりした筆致と合わせ、一度見たら忘れることのできない迫力だ。
 ハリストス正教会のイコン(聖画像)画家だつた牧島如鳩は生活のためには仏画を描いたが、ある種の啓示もあり、キリスト教も仏教も元は一つと考えるようになつたようだ。この絵は福島県・小名浜港の大漁を祈願して描かれた。深く祈るため、両宗教の力を借りたのだろうか。
  一方で、灯台や橋といった古名浜の風景が史実に描かれている。江尻潔・足利市立美術館次長は、「リアルで細密な風景描写が、観音の到来に臨場感を持たせたのではないか」と話す。大漁ょ予祝するかのようなこの絵は、完成直後にトラックに載せられ街を巡つたという。
 以後、実際に豊漁が続いたという。それ故か「(動かすと)不漁になるから」と。海に向かって架けられている漁協の組合長室から、長く門外不出の状態だつた。10年前に漁協が解散、如鳩の故郷・栃木県足利市に収まっている。
 鑑賞の概念をはるかに超え、聖性を宿す前近代的かつ土俗的な作品を、私たちは今、展示室で見ることができる。如鳩はしかし、「500年後の人に自作を見せたい」と語っている。時間感覚の最大さに恐れ入る。
 (編集委員・大西若人)
令和2年(2020.7.9)    朝日新聞夕刊