美御前御揃  ヤナイハラ I  白磁薄肉彫蓋付菓子鉢  丸木俊(赤松俊子)  長野県立歴史館  孔雀明王蔵 「望郷
「田植え   竹狗子図  水月観音像   花を摘む少女       
  
 
 日本の近代とは、大きくいえば西洋化の歩みだつたといえる。美術もしかり、西洋美術をいかに受容し、それを日本の風土にどう定着させるか。この作品は、その葛藤が表れた典型的な一枚だろろう。日本的風景が、印象派風の点描表現でえがかれているのだから。
 作者の太田喜二郎は黒田清輝らに学んだ後、留学先のぺのぎーでエミール・クラウスに師事。フランスの印象派以上に、光そのものを捉えようとしたクラウスは点描により農村風景などを描いた。帰国後の太田ね、京都の郊外や山中で同様に屋外制作に励んだ。
 この絵も、直接は描けない光の表現に挑んでいる。田んぼの水面を生かして反射光を描こうとする。そして、笠の下の顔などに落ちる影との対比で光のきらめきでなく、人や水面の動きを感じさせる。目黒区美術館の山田眞規子・学芸係長は「絵に時間の要素を取り入れている」と指摘する。
 こうした表現は、文展などで評価を受けたが、「光におぼれている」といった指摘もあったという。大正期、「黒田の弟子」には旧体制のイメージがあつたようだ。一方で、ゴッホに連なるような表現主義の要素を持った点描表現は新しすぎたのか、十分に理解されなかった。あるいは日本の柔らかな光や陰影を描くのに、この手法が有効だったのかどうか。太田は、この作品の翌年を最後に、点描表現をやめることになる。
 まばゆいほどの魅力と、苦しみを含んだ問いをはらむ一枚なのだ。
      (編集委員・大西若人)
 憲法で「国の唯一の立法機関」と定められた国会の最大の仕事は、何より法律を作ることである。
 「憲法の神様」と言われた尾崎行雄は、議会の本質について「選ばれた代表が思う存分に意見をたたかわし、議案の是非善悪を判断した結果、民意を政治に反映させる」と表現。少数派の言い分でも、正しければ多数の賛成を得て可決されなければならない。とも指摘した。
 国会はいま、その役割を果たせているのか。
 国会は法案を提出できるのは国会議員と内閣である。提出された法案はまず衆参両院の各委員会に付託され、審議される。
 そこで可決すれば、議員全員が集まる「本会議」で採決され、各院の出席議員の過半数が賛同すれば可決し、両院で可決すれば成立する。
 「統治権の総攬者」とされた
た天皇が法を成立させるために、事前ら同意を与える存在に過ぎなかった対日本帝国憲法の下の「帝国議会」とは、ここが大きく異なっている。
 議会の基本が「多数決」である以上、ある政党が議席の多数を握れば、法律は事実上、意のままに成立させることができる。ただ、国会における少数意見も民意に反映している。いかにそれを尊重し、合意形成を図るかが議会運営の要諦とされ、戦前の憲法学の権威、美濃部達吉は「議会政治の長所は反対党に対する寛容の態度」とした。
 しかし、2013年の参院選で、衆参で過半数を握った安倍政権の国会運営には「塾議」や「寛容の態度」など先人の知恵は見て取れない。
 委員会では、真偽を十分に尽くした上で、与野党合意のうえで法律採決することが望ましいとされるが、安倍政権では合意
のないまま採決に踏み切る「強行採決」が相次いだ。
 特定秘密保護法案や安保保障関連法など、憲法との整合性が問われ、世論を二分するような法律ですら強行採決で成立させてきた。
 さらに「共謀罪」法案を巡つては、審議途中で法案を本会議に上げる「中間報告」
とい強硬な手続きで成立させたこともある。
 こうしたなかで、与野党で法案を修正する機運は低くなっており、今年の通常国会で成立した法律54本のうち、修正された法律はわずか2本だ。国会での野党の質問時間を減らす動きも強まっており、少数意見の尊重という。議会の本質との隔たりも目立つ。
 尾崎の言う「思う存分意見をたたかわせる」という姿勢が、政府・与党側に見えない。野党の質問に対し、閣僚がはぐらかすような答弁をしたり、ヤジを飛ばしたりするのも珍しい風景ではなくなった。
 さらには、安倍晋三首相の側近議員が、憲法改正のために「立法府の長」である大島理森・衆院議長の交代まで言及した。
 ゆらぐ「国権の最高機関」権威をいかに守り、取り戻すかが問われている。
        (田島慶彦)
(令和)2019・8・30 (金)    朝日新聞夕刊