郷冨佐子  国分高史  駒野剛  稲垣康介  原直人  吉原桂子  高橋純子  原直人 
 今年最も多くの人が見たドラマは最高市長視聴率30%超の「半沢直樹」だつた。視聴者は歌舞伎のような大立ち回りに魅せられ、水戸黄門的な勧善懲悪に大いに留飲を下げた。娯楽性に富んでいたのはもちろんだが、銀行が舞台だつたことも人々をひきつけた重要な要素だったのではないか。
 原作者の池井戸潤さんはかつて都市銀行に勤務していた経験がある。行内抗争や裏切り、どんてん返しも、ドラマに負けないくらい激しい銀行界の現実を知る著者だからこそ、リアルに描けたのであろう。
 銀行にはドラマ性を感じさせる何かがある。これほど特別な地位を占めてきた情報網を張り巡らし、ときに影響力も行使する。経済を長らく取材してきた私のような記者にとって欠かせない取材対象だつた。
 そこまで存在感が大きかった背景には、戦後長らく資金不足だつたことがある。高成長のもとで企業は投資意欲  
 スポーツの価値 大山加奈さんに教わったこと 
 いまはゼロ成長、ゼロインフレ、ゼロ金利の時代。銀行を取り巻く景色はすっかり変わった。日本銀行が超金融緩和でジャブジャブになるほどカネ余りにしたことで、企業はずっと容易に資金調達できるようになつた。この状況は当分変わらない。それが当局や専門家たちの一致した見方だ。
 おかげで銀行は苦しくなった。預金者に支払う金利はすずめの涙ほどだが、企業貸し出しや住宅ローンの金利も極めて低い。利ザヤで稼ぐローンビジネスそのものが、もはや成り立たなくなってきた。
 9月に発足した菅政権はすぐに重要   強く、人々の消費は旺盛。お金を貸す側の銀行はずつと殺生与奪の権利をにぎる側だつた。
 20年前、ある有力メーカーの会長がふちこぼした。「銀行との宴席があると必ずあちらが床の間を背にする。我々は実は銀行に複雑な感情を持っているんですよ」
 長らく銀行の給料は他業種より高く、大手行は常に就職人気ランキングの最上位にいた。理系の優秀な人材までさらつていくので製造業界からはよく恨み節を聞いた。
 行く手にはさらなる暗雲も垂れ込める。第一に情報技術を駆使した新しい金融「フィンテック」事業者たちの台頭だ。スマホで簡単に、しかも安上がりに送金や支払いん゛できるサービスがIT大手やベンチャー企業によって次々と立ち上がり、「決済」は預金口座を抱えている銀行だけの特権的ビジネスではなくなりつつある。
 さらに将来の銀行の地位を脅かすものがある。主要国の中央銀行がこぞつて開発を進める中銀デジタル通過(CBDC)だ。
 もし日銀のCBDCが法定通貨となり、全国民が日銀に預金口座   課題の一つに「地銀再編」を掲げた。経営基盤の弱い地方銀行がいずれ悪循環に持ちこたえられなくなるのでと恐れられているのだ。いまや国内最強の3メガバンクでさえ数万人規模でリストラに取り組む時代だ。
 監督する金融庁は公式には表明していないものの事実上、銀行を「構造不況業種」と見なし、対策づくりを急いでいる。 
 を持てるようになったらー。そのとき民間銀行の口座は不要になるかもしれない。日銀がいまそこまでそうていしているわけではないだろうが、技術的には可能な、潜在リスクなのである。
 1997年の金融危機以降、政府は延べ90ちかい金融機関の資金増強のために13兆円もの公的資金を投じてきた。当時から国民には批判の声も強かったが、それでも政府は決行してきた。金融システムを守るという大義名分があったからだ。
 だが銀行の役割が銀行ではなくても担えるようになつたらどうだろう。それでも銀行は特別であり、公的資金を投じてでも守るべき社会基盤だと言えるのか。社会的な役割が揺らげば、そんな常識も変わる。銀行という特別な舞台を描くドラマがいつまでも視聴者をひきつけ続けるとは限らない。
 2020.12.23 朝日新聞夕刊より