郷冨佐子  国分高史  駒野剛  稲垣康介  原直人  吉原桂子  高橋純子 原直人 
 半世紀前に歴史的スクープを放った米ニューヨーク・タイムス紙の元記者ニール・シーハン氏が84歳で死去した。彼が報じたのは米国防省によるベトナム戦争の秘密報告書だ。歴代政権が国民にうそをつき、戦争を泥沼化させていった政策判断や秘密工作、軍事記録が克明に記録されていた。
 当時のニクソン政権は激怒し、安全保障を理由に連邦裁判所に記事掲載の差し止めを求めた。新聞各紙に圧力をかけ、真実を隠そうとした。その行き詰まる攻防檄はスピルバーグ監督の映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」でも描かれている。
 3年前に映画をみて当時の記者たちの気概に感じ入ったものだが、権力取材の教訓もいくつか学んだ。政府は不都合な真実を隠す。平和な解決策がなければ先送りが唯一の手段になる。そして「出口戦略」なき戦争はかくも悲惨な結果を招くことだ。
 出口戦略(exit strategy)という言葉は米国防総省がベトナム撤退時に使ったのが始まりだつた  
異次元緩和8年 泥沼からの出口はあるか
 日銀にとっての「出口戦略」とは異次元緩和を混乱なく終わらせることである。黒田東彦総裁は当初この政策は2年間の短期決戦た゜と説明していた。想定通り進んだなら6年前から出口に向かっていたはずだ。
 ところが実際は緩和をやめられないまままもなく8年になる。コロナ過もあって、終了のめどはまったく立つていない。現状を表すならベトナム報道でもよく使われた「泥沼化」という言葉がふさわしい。
 何が泥沼化させたか。筆頭は財政状態だろう。世界最悪水準の日本政府の借金依存がいっそう悪化した。日銀がお札を刷り国債を買い支えることでもっているが、この「打ち出の小づち」がどこまで持続可能なものなのか誰もわかっ   いまも、人命や資源の損失を最小限に抑えつつ海外派兵の任務を終える作戦のことをそう呼ぶ。
 最近は経営用語、投資用語としても一般的になっているが、日本銀行ではいま
、なぜか禁句語あつかいされている。 
 先週の日銀記者会見で黒田総裁に質問した。総裁はずっと「出口諭は時期早々」と繰り返してきたが、8年たってその言い訳はさすがに通用しないのではないか―。
 「現時点で大幅な金融緩和の出口を検討するのは時期早々だと思う」。返って来たのはいつも同じ答えだつた。
 総裁は「欧米もみな10年越しで金融緩和を続けている。いま出口に向かっている中銀はない」とも強調した。この説明は正確ではない。たしかにいま出口に向かう中銀はないが、米欧中銀は一昨年まて必死に、着実に出口に向かって歩んでいた。まともに議論さえしてこなかった日銀とは違う。    いない。
 市場機能も壊れかかっている。コロナ不況のさなかというのに平均株価はコロナ過を上回り、バブル期以来30年ぶりの高値をつけた。最近は「吹きようが続けば株価は上がる」という倒錯した相場観が広がる。金融緩和だのみの異様な株高ブームの先に何があるか、実は市場心理の底には不安や疑心もおりようにたまっている。
 ベトナム戦争当時、米政権は軍事、経済両面で自国が物量にものを言わせれば戦争は意のままにできると考えた。その傲慢さが出口を見誤らせたのたと考えた。米国はジャーナリスト、デイビッド・ハルバーカタムは代表作「ベスト&ブライテスト」(1972年)でそんな見方を示し、こう書いた。
 「指導層はこの失敗を真正面から直視し、われわれの目標をありのままの現実に合わせて修正することができなかつた」
 まるで今日の日本政府や日銀の首脳たちについて書かれたもののようである。権力はいつの世も同じわなに陥るのだろう。
 ハルバースタムは、当時まだ続いていたベトナム戦争の混迷を「出口のないトンネル」に例えた。あの戦争に平和な出口戦力などありえないのだと見抜いていた。
 2021・1・31  朝日新聞夕刊より